慣行農法(かんこうのうほう)

「慣行農法」(慣行栽培)(以下、「慣行農法」に表記を統一)とは、現在、日本国内で最も取り組まれている農業の方法であり、化学肥料(以下、「肥料」と表記)や化学合成された農薬(以下、「農薬」と表記)を使用して生産物を栽培する農法になります。

その理由は、「慣行」という言葉の意味を調べると、「以前からの習わしとして行われていること。」、「ふだん習慣として行うこと。」という意味があり、

次に「習わし」・「普段」・「習慣」という言葉の意味を調べると、「普通に行われる物事のやり方。」という意味になります。

更に「普通」という言葉の意味を調べると、「ごくありふれたものであること。」という意味になります。

そうした言葉の意味からすると、「慣行農法」とは現在日本国内で最もありふれた農作物の栽培方法となるため、現在の日本で最もありふれた栽培方法を調べたところ(調べるまでもありませんが...)「(化学)肥料や(化学)農薬を使用した農法」になります。

「化学」と聞くと、生産物が化学薬品漬けという印象を持つ方も少なくないと思いますが、「(化学)肥料」は、生産物の生育過程でおいて、生産物に均一に栄養を与えることが可能になるため、安定して生産物を育てることができます。

また、「農薬」は、病害虫や雑草による生育被害を効率的に防ぐことができるため、安定した収穫量を得られるようになり、結果として消費者に生産物を安定して供給することができることになるのです。

特殊な野菜や日本国内での栽培に適していない野菜、天候不良等による著しい不作等のイレギュラーを除けば、現在、マクロ視点で見て日本国内の食生活が安定しているのは、ほとんどの生産物(野菜)が「慣行農法」で栽培されているからに他なりません。(価格的なことはここでは置いておきます)

蛇足ですが、「慣行農法」について農林水産省(関係部署の担当者)の見解を尋ねたところ、江戸時代や数十年先の未来で捉えた場合は、「慣行農法」の意味はその時代の最も一般的な農法になるため、現在とは違った農法を指すでしょうとの見解でした。

 

有機農法(ゆうきのうほう)

「有機農法」(有機栽培)(以下、「有機農法」に表現を統一)とは、肥料に化学肥料ではなく「有機肥料」を使用し、農薬を使用する場合は「有機JAS規格」(有機農産物の日本農林規格)で定められた農薬のみを使用した農法のことです。

よく「有機野菜」=「無農薬野菜」と思われがちですが、必ずしもそうとは限りません。

そして「無農薬野菜」=「有機野菜」かというと、それも必ずしもそうとは限りません。

「無農薬」で栽培されたものでも、全く「有機」でない場合もあります。

「有機農法」という言葉の意味をどう解釈するかによって違いが出てくるのですが、「有機」という言葉だけから考えると、「肥料」も「農薬」も「有機物」であれば「有機農法」と言えます。

消費者側からすると何となくのイメージが定着している事もあり、その辺の違いを理解するのが少々ややこしいところです。

確かに、「有機農法」で使用される「有機肥料」とは、動植物の糞尿や加工屑を、乾燥、発酵、焼却等の加工により作られた肥料のことで、化学肥料と比べると自然の原料を使用している肥料という意味では消費者が安心感を得やすいと思います。

そして、使用できる「(化学ではない)農薬」については、病害虫や雑草の種類によっては生産物に重大な損害が生ずる可能性があるので、「有機JAS規格」で定められた自然由来の農薬のみ使用を許されています。

但し、「有機農法」は「慣行農法」に比べ多くの場合、土作りや肥料作りに手間が掛かり、害虫駆除や雑草除去も原則手作業となるため、とにかく労力と時間の掛かる農法になります。

その結果、栽培面積が狭くなってしまうのと、生産物の生育も安定しにくいため収穫量を増やすことが難しくなり、生産物の価格が比較的高価になりやすくなります。

農林水産省の最新のデータ(2019年現在)から日本国内の「慣行農法」と「有機農法」に取り組む農家の相対比率を確認したところ、約99.5%(慣行農法): 約0.5%(有機農法)でした。(国は「有機農法」を推奨も非推奨もしておらずあくまでも調査データということです)

このデータより、「有機農法」は様々な理由はあるでしょうが取り組むのが困難な農法ということが分かります。

逆に捉えると生産者が少ない分、「有機農法」で生産された生産物は付加価値の高い生産物と言えるのかもしれません。

 

自然農法(しぜんのうほう)

「自然農法」(自然栽培)(以下、「自然農法」に表記を統一)とは、その字ごとく、自然の持つ力で生産物を育成する農法のため、「(化学)肥料」や「(化学)農薬」はもちろんのこと、「有機肥料」や「有機農法で認められた農薬」等も使用せず、害虫駆除もしない。基本的には生産物のお世話を何もしない農法になります。

「自然農法」の定義自体が法律等で定められている訳ではないため曖昧な部分もあるため人によって方法も様々で、害虫の駆除や雑草の除去も行わず土壌を耕すこともしないというやり方もあれば、雑草だけは刈り取ってその場に放置して土に帰るのを待つとか、種まきや苗植えの最初だけは土を耕すなど、細かな違いはあるようです。

「自然農法」の基本的な考え方としては、水も土壌の栄養も微生物も本来の自然の循環が行われる自然の土の力で生産物に適正な栄養は行き渡るものであり、病気や害虫の被害に合う生産物はそもそも弱いものであるため淘汰されてやむなし、最後まで自力で生育しきった生産物が健康な農作物だから良い農作物ということのようです。

原則として植え付けと収穫以外(場合によっては草刈り程度はする)の人工的な手を加えないというものなので、「肥料」も「農薬」も一切使用しないということから、農薬や肥料の使用にこだわりの強い消費者の方にとっては「慣行農法」<「有機農法」<「自然農法」ということで、最も安心・安全と思われる農法かもしれません。

但し、土壌の養分不足や病害虫被害の影響をモロに受けっぱなしになるために、実際の収穫量はとても少なくなるため、当然市場への安定供給というところは現時点では非常に難しいようです。

 

良い農法は◯◯農法

「慣行農法」、「有機農法」、「自然農法」の違いは、農産物の生産者(農家)の考え方の違いによる取り組みの違いです。

世の中には、TVゲームに関すること、喫煙に関すること、飲酒に関すること、健康食品に関すること政治体制その他様々な事に対し、個人的好み、専門家と言われる人の意見や実験結果、マスコミ情報など沢山の影響を受けて個人個人に好き嫌いがあるのと同じように、各農家がそれぞれの経験、知識、情報から、どの「農法」で野菜を生産するのかを考えてどの方法で野菜を生産するか選択しています。

そして、消費者の方達もそれぞれの経験、知識、情報から、どの「農法」で生産された野菜を購入するかを選択しています。産地も選択肢のひとつになっているかもしれません。

それは、食べ物や音楽や自動車や仕事の好みがあるのと同じことで、それぞれが「良い」と思うものを選択すればいいのであって、自分と違う好みや考え方が必ずしも間違っていると言えないのと同じことなのです。

農薬について、病気(ガンなど)の専門家(大学教授など)によって「農薬がガンや病気の原因になる。」という人も居れば「農薬が病気の原因となる科学的根拠(データ)は無い。」という人も居れば、農薬と病気の因果関係を調べた実験結果ですら「因果関係はあった」というデータもあれば「因果関係は見られなかった」というデータもあります。
別の角度の意見では「そもそも野菜は害虫に対抗する毒性を少なからず持っていて、農薬を使用した方が野菜自体が害虫からの攻撃を受けずに毒性を強くする必要がなくなるので逆に安心。」という意見もあります。※人体に影響が無い(無視できる)とされる範囲の農薬量での話しです。

農薬に限らず、様々な科学的データでさえ反する結果もあれば、同じデータでも見る人によっては解釈が違ってくることもあるのです。

野菜を生産する「農法」ということに限定すると、「◯◯農法」が正しくて「✕✕農法」が間違っているということではなく、生産者も消費者もそれぞれが信じるもの、好きなものを選べばいいだけのことです。

消費者側であれば、本当は選びたくないのに様々な理由から選びたくないものを選ばざるを得ない場合もあることでしょう。

例えば、外国産の輸入野菜は(農薬や衛生面が)恐い印象があるから国産の野菜を食べたいと思っていても、経済的理由によって実際に購入する野菜の選び方が変わるかもしれませんし、何かしらの理由で遠くまで行けないため、インターネットも使えなければ遠くまで買い物に行くことを頼める人がおらず、たまたま行動範囲の中で買える野菜が外国産のものしか売っていないため、その野菜しか買えないということもあるかもしれません。

逆に、どんな農法でどこの国で(どこの地域で)作られた野菜かなど、いちいち気にしてないという人も居るでしょう。

生産者側であれば、「有機農法」を選んで野菜を生産している農家さんが、本当はできるだけお手頃な価格で自分が育てた野菜を消費者に提供したいと思っていても、自分達(農家)も生きていかなければならないために、どうしても「慣行農法」で生産された野菜と比べると価格が割高になってしまうこということに思い悩んでいる人も居ると思います。

どちら側の立場でも、それぞれに好き・嫌い、信じる・信じない、メリット・デメリットとなるものがあるのだと思います。

インターネットが普及した現在では、(真偽やどこまで詳細かはともかく)おおよそ知りたい情報を調べることができます。

食に関心を持つことは生活していくうえで大切なことだと思います。

もし、野菜生産の農法が気になる方でしたら、少しの空いた時間でもいいので各農法について調べてみてもいいと思います。

多くの人は今持っている考え方と同じ考え(同じ答え)の情報しか受け入れ難いことが少なくないと思いますが、敢えて一度偏りのない見方で調べてみるのも悪くはないのではないでしょうか?

ご自分の捉え方や考え方が正しかったという根拠ある自信に繋がる結果になるかもしれませんし、もしかすると勘違いしていたことに気がつく結果になるかもしれません。

そのうえで、改めて自分なりの正しい「良い農法」を判断してみてもいいと思います。